予知保全におけるAIの活用

Mark Jackley | コンテンツ・スペシャリスト | 2024年12月23日

工場設備が予期せず故障すると、生産が遅れたり、完全に停止してしまいます。そうすると、時間やコストが無駄になるだけでなく、顧客の信頼も失われます。しかし近年、製造業者、公共事業者、エネルギー生産企業など、重機を扱う企業は、生成AIを活用することで、これまで以上に正確に機械の故障を予測できるようになっています。この予測情報をもとに、組織は計画的な保守を実施し、計画外停止を回避し、高価な設備の寿命を延ばすことで、生産業務やサプライチェーンを円滑に保つことが可能になります。

予知保全におけるAIとは

予知保全とは、機械の故障を予測し、事前に修理を行う、データドリブンのアプローチです。現在、IoT(モノのインターネット)の普及により、スマート・ファクトリーや油田、風力発電所、電力設備、鉱山、トラック輸送網など、さまざまな分野で使われる機器にデータ収集センサーが組み込まれるようになりました。これらのセンサーは、AIアルゴリズムにデータを供給し、機器の状態を監視し、異常を検知し、保守作業の優先順位を判断します。

こうしたシステムは、稼働状況を常時分析し、一見正常に動作しているように見える機器であっても、故障の兆候がないかを探ります。AIツールは、機器の性能を基準データと比較して、わずかな効率低下さえもリアルタイムで検出し、保守チケットを発行するようチームに促します。このようにして、故障の発生をより正確に予測できるだけでなく、故障の根本原因に関する深い洞察も得られるようになります。

主なポイント

  • 従来のデータ分析技術と比較して、AIはより迅速かつ高精度な予知保全を実現します。
  • AIを活用して機械の故障や保守の必要性を予測することで、企業は稼働停止を減らし、業務効率を向上させることができます。
  • 世界有数の大手企業が、自社の予知保全プログラムにAIツールを導入し、良好な成果をあげています。

予知保全におけるAIの説明

これまで製造業では、機器の保守計画を機械の標準的な寿命(故障を含む)に基づいて立てていました。しかしAIの登場により、機械のデータを収集・分析して故障を予測し、個々の機械や生産ネットワークについてより詳細まで把握できるようになったため、従来の推測に頼る必要がなくなりました。

また、リアルタイムで保守の推奨が提示されるため、重要な設備を優先的に修理できるようになります。保守にはダウンタイムがつきものですが、AIを活用した正確な予測に基づいて保守計画を立てることで、最適なタイミングで保守を実施し、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。

予知保全が重要な理由

答えはシンプルで、ダウンタイムが削減できるからです。国際自動化学会(ISA)によれば、工場では通常、機器の故障やその他の要因によるダウンタイムによって、製造能力の5%〜20%が失われているとのことです。このダウンタイムによる損失には、生産量の減少、不良品の増加、効果の薄い応急処置、そして生産を維持するための外部業者への依存などが含まれます。

これほど多くのリスクがあるため、機械の状態と保守の必要性を正確に予測して、ダウンタイムを削減することが非常に重要です。2024年にSiemensが行った調査でも、生産ラインが停止した際のコストは非常に高いと指摘されています。自動車業界の大規模な工場では、生産停止による年間の損失が6億9,500万ドルにも上り、これは5年前と比べて150%の増加となります。同じ調査の中で、世界の上位500社が予期せぬダウンタイムによって年間収益の11%を失っていることも報告されています。

予防保全と予知保全の違い

予防保全と予知保全は、いずれも工場設備の状態を事前に把握するための能動的なアプローチです。

予防保全では、機器の使用頻度や稼働状況にかかわらず、一定の間隔で設備を点検します。通常は、過去のデータや機器メーカーからの推奨事項に基づき、ルール化された保守スケジュールを作成します。このアプローチにおいて唯一の変数は、前回の点検からの経過時間です。

この方法は、何もしないよりは確実に効果的ですが、限定的なデータに基づく一般的な推奨に頼っているため、精度に欠けます。たとえば、実際にはまだ使用可能であるという微細な兆候を見逃し、重要かつ高価な部品の交換を推奨する場合があります。結果として、過剰な保守による無駄な停止やコストが発生する可能性があります。

一方、予知保全では、機器のセンサーからパフォーマンス監視ソフトウェアに送信されるデータを使用して、機器を継続的に監視します。AIアルゴリズムは、設備の温度、振動、圧力、流体レベルなど膨大な量のデータを分析し、設備の健全性と性能に関する詳細なモデルを構築します。その結果、故障を高い確度で予測し、「どのタイミングで、どの部分を修理すべきか」というより実用的な示唆を得ることが可能になります。予防保全のような硬直的なルールではなく、予知保全はリアルタイムのモニタリングによって、予測される問題や根本原因、必要な対応を動的に特定します。

注入モールドを専門とするあるメーカーは、ロボットや注入モールド機械の異常を検知し、対処するために予知保全を利用しています。機械の状態と部品の品質を綿密に監視することで、保守にかかる時間を削減し、従業員が新製品の開発や業務プロセスの改善に集中できる環境を実現しています。

通常、企業はダウンタイム、コスト、怪我、または命に大きな影響を与える可能性のある機器を監視するために保知保全を実施します。例えば、変電所の停止により何千人もの人々が停電に見舞われるような場合、公益事業者はAIを活用した詳細な予知保全に投資することがあります。一方で、クリティカルではない、リスクの低い機器については、企業は従来の予防保全を継続することが多いですが、時には監視ルールを改善して、より詳細なデータを取得し、積極的な保守計画を立てることもあります。

予知保全におけるAIのメリット

予防保全と予知保全は、いずれも工場設備の状態を事前に把握するための能動的なアプローチです。

  • コスト削減
    機械の故障をより正確に予測することで、保守スケジュールの最適化が可能となり、突発的なダウンタイムおよびそれに伴うコストを削減できます。また、問題の兆候をいち早く検出し、保守作業を推奨することで、設備の寿命を延ばすことにもつながります。AIアルゴリズムは機器のエネルギー消費も詳細に追跡できるため、非効率な動作を検出し、コスト削減策を提案することも可能です。また、保守作業の優先順位を明らかにし、不要な点検、修理、交換を減らすことで人件費の削減にも貢献します。

    あるグローバルメーカーは、ロボット、コンベア、ドロップリフター、ポンプ、モーター、ファン、プレス機/スタンピング機など、1万台を超える機械をAIシステムで監視しています。同社は、AI導入からわずか3か月で投資回収を達成し、数百万ドル規模のコスト削減を実現しています。
  • 機械の停止を最小化
    AIは、従来の方法よりも迅速かつ正確に故障を予測することで、機械の停止時間を削減します。これにより、メーカーは機械トラブルを未然に防ぎ、稼働時間を増やし、サプライチェーンを滞りなく維持することができます。
  • 生産性の向上
    2022年のDeloitteの調査によると、保知保全AIツールは労働生産性を5~20% 向上させる可能性があります。その理由の一つとして、AIはダウンタイムを最大15%削減し、生産ラインの稼働を維持できることが挙げられます。
  • 安全性の向上
    機械の故障は作業者の安全を脅かすリスクがあります。機器の故障時期をあらかじめ予測し、計画的に修理することで、作業員や保守技術者を危険な状況に晒すことを回避できます。米国労働安全衛生局によると、機械の操作・保守に従事する米国の労働者の年間負傷者数は約18,000人に上り、死亡者数は800人以上とされています。
  • 設備寿命の改善
    AIベースのデータ分析ツールにより、機械部品の早期摩耗を防ぐことができ、設備の寿命を延ばし、稼働時間や生産性、そして最終的には収益を向上させることができます。
  • 品質管理の強化
    手作業による品質管理は時間がかかり、ヒューマンエラーが発生しやすいものです。AIツールを活用すれば、機器の検査を自動化し、リアルタイムのフィードバックを通じて製品の品質と一貫性を向上させることができます。結果として、不良率を低減し、生産コストを削減できます。製品仕様に関する膨大なデータでトレーニングされたAIアルゴリズムは、製品にひび割れや部品のずれ、色や質感の不一致、その他の問題がないかを検出できます。たとえばトルクを監視するAIシステムは、トルク値の一貫性を追跡し、ボルトやネジが規定の強さで締められているかを確認できます。許容範囲を超える値を検出した場合、AIシステムはすぐにメーカーにアラートを発し、迅速な対応を促します。
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予知保全におけるAIの活用方法

AIは、製造、フリート管理、輸送、採掘、リサイクル業、エネルギー分野など、多くの精密機械を使用するさまざまな業界で予知保全を支えています。企業は、AIを活用して機器の状態を監視し、異常を検出し、故障や停止を予測し、保守作業の優先順位付けやスケジューリングを行い、エネルギー使用を最適化し、是正措置を推奨する自動化モデルを構築することができます。

  • 停止の防止
    AIベースの予知保全では、接続された資産から、過去のパフォーマンスやリアルタイムのコンテキスト・データなどのデータを収集することで、コストのかかる停止を削減します。アルゴリズムはデータをリアルタイムで分析し、工場チームにレポートを送信し、機械の過熱や電圧の異常変動といった潜在的な故障の兆候を知らせます。

    ある大手アルミニウム製造企業では、AIツールを使って製錬所内のロボットや機器を監視しています。作業者は、たとえば部品の緩みが原因で性能が低下している鋸のモーターに関して、少なくとも2週間前に保守警告を受け取ることができます。この仕組みにより、1回あたり12時間の予期せぬダウンタイムを回避しています。
  • 状態監視
    メーカーは、設備の状態を継続的に監視することで、生産の安定稼働を維持する必要があります。AIアルゴリズムは、従来のテクノロジーに比べて、機器の正常/異常を迅速かつ正確に判別できます。これらのシステムは、設備の健全性に関するリアルタイムデータを分析し、関連するパターンを特定し、故障を予測して停止を未然に防ぎます。また、事前に決めたスケジュールではなく、実際の状態に応じて保守の優先順位を判断できる点も特徴です。
  • 異常検出
    従来の異常検出は、ルールベースのシステムによって行われていました。これらのシステムは、ハードコードされた閾値を使用して機械の異常を検出し、故障を予測します。たとえばISOの基準で設定された閾値を超える振動があった場合に、異常と判断して保守を勧告するような仕組みです。しかし、現代の複雑な設備は、振動だけでなく温度、圧力、熱など膨大な変数のデータを出力するため、旧来のシステムでは正確な判断が難しくなっています。

    一方、AIシステムは、データを集めて分析するだけでなく、その過程で学習します。単にルールに従って現在の問題を指摘するだけでなく、わずかな性能の変調まで検知し、障害を引き起こす前に潜在的な問題を察知できます。
  • 故障予測
    AIは、過去のパフォーマンス・データと、センサーから得られるリアルタイム・データを分析して、設備の劣化を予測するモデルを構築します。これにより、大規模な機器故障を回避することができます。モデルがより多くのデータを吸収するにつれ、学習・適応し、予測精度が向上します。ディープラーニング(機械学習の一種)による故障予測は、人による観察や従来の手法では見つからない隠れた相関関係を発見します。ある多国籍の宅配会社では、仕分け施設で使用する30種類以上の機械の故障(ギアボックス損傷やベルトの劣化など)をAIで予測しており、年間で数百万ドル規模のコスト削減を実現しています。
  • 保守作業の優先順位付けとスケジューリング
    AIは、問題の特定、優先順位の決定、保守スケジュールの再調整をリアルタイムで行うことで、保守計画を改善します。AIドリブンの予知保全は、現在の問題のみに焦点を当てたり、過去データに基づいてスケジュールを作成するのではなく、現在の設備状態を踏まえて「このままでは何が起こるか」を予測します。その後、企業が取るべき予防措置を提示します。
  • エネルギー利用の最適化
    機械は時間が経つにつれ効率が低下し、同じ出力を得るためにより多くのエネルギーを消費するようになります。たとえば米国では、非効率な圧縮空気システムにより年間32億ドルの浪費が発生していると、Compressed Air and Gas Instituteは報告しています。AIを活用した予知保全により、製造業者や機械オペレーターは設備の欠陥を早期に発見し、廃棄や手直しが必要になる前に修理を計画できます。Ford Motorでは、工場全体のエネルギー利用を最適化するため、AIとデジタルツインを活用してエネルギーの無駄を見つけ出し、それを排除する方法を特定しています。
  • コンピュータビジョン
    コンピュータビジョン技術は、コンピュータに「見る」能力を提供します。たとえばメーカーは、AIをトレーニングして機器の状態を録画した動画を視聴させ、分析させることができます。視覚情報を解析するアルゴリズムを通じて、画像は単なるデータではなく、他の情報と組み合わせて活用できる情報へと変わります。これにより、目視では捉えにくい、わずかな摩耗や損傷、部品のずれ、欠品、さらには棚に並んだ商品の包装の破損といった異常を検知することが可能になります。画像データは、問題の根本原因や最適な対応策の特定にも役立ちます。

予知保全におけるAIの7つの活用方法

  1. 停止の予防:コストのかかる停止を削減します。
  2. 状態監視:設備の状態を綿密に監視します。
  3. 異常検出:異常をリアルタイムで検出します。
  4. 故障予測:故障の兆候をわずかな変化から察知します。
  5. 保守計画:保守の優先順位付けとスケジューリングをより効果的に行います。
  6. エネルギーの最適化:エネルギー浪費の原因を特定します。
  7. コンピュータビジョン:画像データから問題を特定します。

予知保全におけるAIの活用例

世界有数の大手メーカーが、AIを活用して機械の予知保全を強化し、稼働時間を向上させています。

ある世界的自動車メーカーは、AIを活用して自社工場の溶接ロボットの検査と保守を行っています。具体的には、コンピュータビジョンとディープラーニングを用いてロボットの画像や映像を分析し、欠陥を特定しています。このAIシステムは、それぞれのロボットに適したパラメータや設定を提案し、保守や交換が必要な際に作業員へ通知します。同社は、このソリューションにより、ロボットの検査時間が70%短縮され、溶接品質が10%向上したと報告しています。

GE Aviationは、航空会社やその他の顧客が使用するジェットエンジンの保守の必要性を予測するため、AIを活用しています。約44,000基のエンジンに埋め込まれたセンサーが、シンシナティと上海にあるGEのモニタリングセンターにデータを送信します。GEはこのデータを物理エンジンモデルや環境データと組み合わせて分析し、問題が発生する前に保守の必要性を予測します。AIの活用は、エンジンの信頼性向上に役立つだけでなく、航空会社の保守コスト削減と安全性の向上にも貢献しています。

Oracle Supply Chain Managementによる稼働率の向上

Oracle Cloud Supply Chain & Manufacturingのアプリケーションを活用して、サプライチェーンの回復性を高め、混乱を減らし、市場の変化に先手を打ちましょう。Oracle Fusion Cloud Maintenance に組み込まれているAIベースの予知保全ツールを活用することで、設備のパフォーマンスをより細部まで把握し、計画外停止や運用コストを削減できます。

予知保全におけるAI - よくある質問

保守管理におけるAIの役割は何ですか?
AIは、従来の技術よりも迅速かつ正確に機器の故障を予測し、保守に関する洞察を提供します。これにより、企業は機器の摩耗や予期せぬ停止を削減できます。

AIはどのように保守に活用できますか?
企業はAIを活用して機械の状態を監視し、異常を検出し、故障や停止を回避し、保守の優先順位付けやスケジューリングを行うことができます。

機械学習は保知保全にどのように活用できますか?
機械学習アルゴリズムは、設備が劣化・故障したり、修理や交換が必要になったりするタイミングを予測できます。機械学習アルゴリズムは、AIドリブンの予知保全ソリューションのカギとなる技術です。

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