調達におけるAIの活用: 利点とユースケース

Mark Jackley |シニア・ライター| 2025年2月18日

サプライチェーン・マネジメントと財務の接点で業務を行う調達部門のチームほど、エンタープライズ・データを集めているチームはほとんどありません。そのため、調達チームはそのデータにAIを適用し、これまで以上に迅速かつ本質的な分析を行なう体制が整っています。AIを賢明に利用するために、調達チームはさまざまな種類のAI、そのメリットと課題、成功のためのベストプラクティスを理解する必要があります。

調達におけるAIとは

調達では、サプライヤーへの入札依頼やコスト分析など、かつては人間が行っていた作業の一部をAIが担うことができ、そうした作業をより迅速に、より少ないエラーで実行することを目標としています。調達マネージャーは、AIによる自動化が、市場環境の予測と対応、サプライチェーン・リスクの軽減、サプライヤーとの関係管理をいかに支援できるかを理解し始めています。最終的には、AIを活用することで、調達に関するより適切な意思決定、コスト削減、運用効率の向上を支援することができます。

主なポイント

  • ほとんどの調達チームは、まだAI導入の初期段階にあります。
  • サプライヤーを調査および管理し、購入プロセスの主な側面を自動化するなど、調達におけるAIの活用には多くの可能性があります。
  • 今後数年間で、調達チームは、効率の向上、コスト削減、サプライ・ネットワークの急速なシフトの予測を支援するために、ますますAIを活用するようになります。

調達におけるAIの説明

調達チームは、支出、需要パターン、購買仕様、市場の状況などを把握するために、社内外のソースからのさまざまなデータを必要とします。また、データを分析し、最適な行動方針を設定するためのより強力な方法も必要です。2024年のDeloitteの調査によると、最高調達責任者の92%が生成AI機能を評価しており、そのうち11%近くが年間予算の100万ドル以上をAI調達・購買ツールに費やしています。優先事項には、サプライヤー管理の自動化、リスクのより正確な特定、現在および潜在的なパートナーのより徹底した評価などがあります。これらおよびその他の改善は、最高調達責任者が調達およびサプライチェーン全体でコストを削減し、リスクを軽減できるよう支援する可能性を秘めています。

調達におけるAIのメリット

特定の調達業務を自動化することにより、AIは効率の向上を支援すると同時に、コストの削減とリスクの軽減を支援することができます。AIは需要予測、支出分析、ベンダー管理の改善を支援するためにも導入が可能です。これらとその他のメリットについては、以下でご説明します。

  • 効率の向上
    AIを使用して調達業務を自動化することで、生産性の向上と管理上の負担軽減を支援し、調達担当者はより戦略的な活動に集中できるようになります。2023年のKPMGの調査によると、AIは基本的な調達業務の実行時間を最大80%短縮できるよう支援します。同調査では、効率の向上とコスト削減を支援するために、調達労務の50%以上を自動化できると結論づけています。ある商業用不動産デベロッパーでは、AIを使用して調達データを収集することで、手作業と比較して92%高速化していることが報告されています。
  • ヒューマンエラーの可能性の低減
    AIを使用して反復的なタスクを自動化でき、これによりヒューマンエラーの可能性を減らすことができます。そうしたタスクには、サプライヤーとの契約締結や発注書の発行および承認などが含まれます。もし、不可避なミスが発生した場合、AIのエラー検出機能により、ミスにフラグが設定されるよう支援することができます。ある水処理企業は、AIを使用して調達支出の分類の精度を90%以上向上していることが報告されています。
  • スケーリングの実現
    AI調達システムは、ビジネス・ニーズや市場状況の変化に応じてデータを処理できるようスケールすることが可能です。そうしたスケーラビリティは、調達チームがサイロ化された手動操作から、より大量のデータを使用する連携および自動化された操作へと移行し、情報共有の迅速化とより十分な情報に基づく意思決定を実現する上でカギとなります。たとえば、過去の支出や需要予測などのソースから抽出されたインサイト(それぞれが膨大なデータセットとなる可能性があります)は、不要なコストを削減する意思決定のガイドとなる場合があります。
  • コスト削減
    調達チームによるサプライヤーの選択と管理を支援することで、AIの活用は関係強化とコスト削減につながる可能性があります。一例として、あるグローバルな印刷企業は、AIがサポートする調達アプリケーションを使用して、承認された間接サプライヤーに早期支払いと引き換えに数量割引を交渉しています。AIデータ分析とパターン認識により、チームはカテゴリ全体にわたる支出に関するより深いインサイトを得ることができ、コスト削減につながる特定のステップを推奨できます。調達マネージャーは、AIを使用して、特定の地域における異常気象によってリスクにさらされる支出の割合や、世界の他の地域のサプライヤーに関する推奨事項など、より十分な情報に基づく意思決定を行うための情報収集を目的とした、いかなる数のクエリに対しても迅速な回答を得ることができます。
  • 反応性の低減
    AIはインサイトをより迅速に提供することで、調達チームが不都合な不測の事態を回避できるよう支援します。以前の調達は、データ・サイロ間における支出の可視性の欠如と、時間がかかり、エラーが生じやすい手動プロセスにより、ほとんどが受動的な対応で終始していました。可視性を向上させ、よりスマートで迅速なワークフローを推進することで、AIは支出分析や財務予測などの戦略的なタスクに割く時間をより多く確保できるよう支援します。
  • 意思決定の強化
    総勘定元帳、発注書、サプライヤー取引など、多数のソースから取得したデータにAIと分析を適用することにより、調達に関する意思決定をかつてないほど迅速に行うことができます。また、AIシステムは適応して学習することができ、これまで以上に正確な分析と効果的な推奨を行うことができます。

調達におけるAIの種類

AIには、機械学習、自然言語処理、コンピュータ・ビジョンのサブセットに加え、補完テクノロジーであるロボティック・プロセス・オートメーションなど、さまざまな形態があります。以下でそれぞれの詳細をご紹介します。

  • 人工知能(AI)
    包括的なテクノロジーである人工知能は、パターンを認識して推奨を行う機能など、「賢い」または人間のような行動を示すアルゴリズムを指します。アルゴリズムは、単純に特定の問題を解決するためのルールです。調達におけるAIアプリケーションは、デフォルトの特定のタスクを実行するため、「狭いAI」の一形態と考えられています。

    生成AIは、調達で最も頻繁に使用されるAIの種類です。生成AIは、テキスト、画像、動画などのコンテンツを生成することができます。そのために、大量のデータを処理してコンテンツを作成します。一部のベンダーの調達アプリケーションに組み込まれた生成AI機能には、サプライヤーとのコミュニケーションをカスタマイズしたり、レポートや契約書の下書きを作成するAIアシスト機能が含まれます。
  • 機械学習(ML)
    機械学習は、パターンの検出と予測を行うために使用されるAIのサブセットです。すべてのAIにMLが含まれているわけではありませんが、AIの多くはMLの技術を使用しています。調達の文脈では、MLモデルは過去の購入データと市場動向を分析して将来の需要を予測することができます。
  • ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)
    ロボティック・プロセス・オートメーションは、ボットを使用して、フォームの入力、レポートの生成、トランザクションの処理などの反復的なタスクを自動化します。RPAは厳密にはAIの一形態ではありませんが、AIを補完してプロセスを効率化します。たとえば、自動化された調達システムでは、RPAを使用して請求書の作成やサプライヤーのオンボーディングを、手動プロセスを妨げることの多いエラーを発生させることなく、迅速に行うことができます。
  • 自然言語処理(NLP)
    強力なアルゴリズムに基づき構築された、AIのもうひとつの分野である自然言語処理は、コンピューターによる人間の言語の理解と操作を実現します。NLPは書き言葉や話し言葉を理解し分析することができるため、調達チームはテキスト・データから役立つインサイトを引き出すことができます。調達では、NLPはRFPの回答から主要な条件などの情報を抽出し、より深いインサイトにより選考プロセスに情報を提供できます。
  • コンピュータ・ビジョン
    コンピュータ・ビジョンは、コンピューターが動画などの画像を解釈および理解することを可能にするAIの分野です。たとえば、製品、ロゴ、または請求書の画像を検証して、調達エラーや在庫不足などの注意が必要な状況を検出することができます。企業は在庫を文字通り可視化することで、主要アイテムを再注文したり、不要な購入を回避することができます。

調達AIのユースケース

AIはより迅速で効果的なプロセスを可能にするため、調達管理全体で活用できます。自動化は共通する要素であり、組織がコスト削減とリスクの低減を支援するデータ・インサイトを提供する一方で、ヒューマンエラーを低減しながら、ほぼ即座にタスクを完了できるよう支援します。

  • 予測分析とコスト最適化
    AIアルゴリズムは、たとえば過去の売上、市場動向、天候や経済要因など、大量の調達データを分析し、需要予測やコスト削減を支援します。リアルタイム・レポートは、調達担当者が需要を先取りし、サプライヤーの選択、数量、支出を調整できるよう支援します。AIベースの分析は、在庫水準の設定や在庫切れの回避も支援し、コストの削減とステークホルダーおよび顧客の満足度維持のバランスを取ります。
  • タスクの自動化
    AIは調達タスクを自動化し、効率とコスト削減の向上を支援します。こうしたタスクには、サプライヤーの調査、分析、管理およびRFPの作成が含まれます。そのようなタスクの高速化により、AIは調達サイクル時間を短縮することができ、その結果、組織の規模にもよりますが、年間数百から数千時間、また場合によっては数百万ドルのコスト削減が可能になります。手作業の負担がなくなることで、従業員はサプライヤーのパフォーマンス基準の改善や調達戦略の見直しといった価値の高い活動により多くの時間を費やすことができます。
  • 発注書の自動化
    従来の発注業務は手作業で行われ、時間がかかり、エラーが多発することがよくあります。AIは発注書の仕分け、優先度設定、処理などのタスクを自動化して、スピードアップとミスの削減を図ることができます。発注書からデータの抽出と妥当性確認を行い、問題がなければ発注書を生成します。AIツールの中には、発注書のプロセスが進行する過程で顧客に情報を提供し、納期の見通しを設定するものもあります。ある本人確認サービスプロバイダーは、AIを使用して保留中の発注書をモニターし、不一致やその他の問題を検出していると報告されています。
  • バーチャル・アシスタント
    生成AIベースのバーチャル・アシスタントは、調達関連の一般的なクエリを理解および解釈し、さまざまなトピックに関する情報を提供します。これらのボットは、カテゴリおよび市場レポート、チーム全体で共有するサマリー、およびマネージャー向けの主なトレンドの説明などのコンテンツを作成することで、生産性の向上を支援することができます。
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調達における生成AIの用途

コンテンツを生成する機能を持つ生成AIは、調達において数多くの用途があります。データを組織化するような一般的なものもあれば、リスクの特定やサステナビリティの改善といった極めて具体的なものもあります。

  • データの編成と要約
    生成AIは、人間が独自に行うよりも迅速かつ論理的にデータを整理することができ、多くの場合エラーも削減できます。これにより、重要なデータポイント、インサイト、推奨事項を明確化した、より説得力のあるデータ・サマリーの基盤が構築されます。たとえば、調達マネージャーは、重要なカテゴリにおける価格と支出のサマリーを要求し、数時間ではなく数分で、そのレビューを行うことができます。
  • データ処理とラベリング
    生成AIは未加工データを迅速にクリーニングし、異常値や不整合を除去して分析を強化することで、データ処理を改善することができます。データの適切なタグ付けやラベリングは、AIシステムによる学習、予測、役立つコンテンツの生成を支援するためのカギとなります。たとえば、適切にタグ付けされたデータセットは、大規模言語モデルがベンダーの価格比較に対する理解を深められるよう支援することができます。
  • リスクの特定
    2023年のDeloitteの調査レポートによると、最高調達責任者の70%は調達リスクの上昇を認識しています。生成AIは、調達プロセス全体を通してリスクをより簡単に特定できるようにします。過去のパフォーマンスを分析することで、サプライヤー間のリスク根絶を支援するために活用できます。また、供給の中断リスクや、それが売上に及ぼす可能性のある影響に関する質問にも答えることができます。
  • サステナビリティの改善
    企業がサステナビリティ目標の達成に努める中、調達チームは膨大な量のデータを収集および分析する必要がありますが、このプロセスは常に時間がかかり、推測による作業となっていました。生成AIは、サステナビリティ要件を満たす可能性のあるサプライヤーを特定するために使用することができ、調達を効率化しながらコンプライアンス・リスクの軽減を支援します。

調達AIの課題

調達におけるAIの導入には、文化、テクノロジー、セキュリティ、そして以下で詳細を説明するその他の課題が伴います。

  • 組織の導入
    新しいテクノロジーの導入が遅い傾向がある組織の場合、その調達チームはAIの導入を困難に感じる可能性があります。残念なことに、一部のエグゼクティブは、AIは将来的に有望なものであり、短期的に成果が出るスマートな投資ではないと考えています。
  • データ品質とアクセス
    調達データは、数多くのソースに分散していることがよくあります。その結果、不完全なデータ、一貫性のないデータ、アクセスできないデータ、誤ったデータなどが発生する可能性があり、厳しいAI分析の基盤となることはほぼありません。調達チームが、互換性のないレガシーERPアプリケーションが原因となり、他部門から情報を得られない場合には、役に立ちません。
  • レガシー・システムとの統合
    企業がレガシー・システムに閉じ込められたデータにAIを適用しようと試みる際に、問題が生じることがよくあります。このようなシステムは通常、豊富なデータセットを収集し、主要なインサイトに基づいて行動するうえで障害となります。ERPシステムが在庫およびサプライチェーン・データと調達データを統合する場合、調達チームはAI分析によるメリットを享受できる可能性が高くなります。
  • データ・プライバシーとセキュリティ
    AIベースの調達システム、特にサプライヤーやその他サードパーティのシステムと連携しているものは、セキュリティ上の脆弱性を生み出す可能性があります。そのようなネットワーク化されたシステムの複雑さは、データの流れを分かりにくくし、適用されるプライバシー法に準拠してデータが取り扱われていることの確認をより困難にすることがあります。

調達AIを使用するためのベストプラクティス

次のベストプラクティスは、組織がAIを使用して調達プロセスを改善するうえで役立ちます。

  1. 明確な目標の設定
    調達プロセスにAIを適用する前に、組織的または技術的な障壁に加え、特定の問題点と改善の優先順位を特定します。発注書の自動化であれ、より正確な支出分析の実現であれ、明確に理解された現実的な目標の設定は役立ちます。
  2. データソースの理解
    AIシステムを成功させるためには、調達チームはAIシステムが使用する膨大な量のデータを信頼する必要があります。厳格なデータ・ガバナンス・プロトコルに従います。データをソースからクレンジングし、正規化し、妥当性確認することで、現在所有しているデータの内容と可能な使用方法を認識することができます。
  3. 常にユーザー・ニーズを中心に
    チーム・メンバーがより効率的に業務を遂行するために、調達システムに求める機能とはどのようなものでしょうか。複雑さを増すだけの不要な機能は回避します。シンプルで直感的なユーザー・インターフェースを持つシステムを選択します。
  4. 焦点を絞り込んだスタート
    AIを導入する際は、大きな目標を掲げるのではなく、迅速に成果をもたらす小規模なプロジェクトから開始します。これにより、AI機能をテストして慣れることができ、その効果を評価し、大規模に導入する前に微調整を行うことができます。
  5. チームの強化
    調達担当者はデータ・サイエンティストでなくともほとんどのAIツールを使用できますが、そのようなツールを効果的に使用するためにはトレーニングや試行錯誤のための時間が必要です。予算的に可能であれば、調達AIの経験を持つスタッフの追加採用を検討します。
  6. 信頼構築と懸念への対応
    調達AIはチーム競技のようなものであり、調達、サプライチェーン、財務チーム間のコラボレーションが必要です。目標、ロードマップ、標準、ベストプラクティス、成功事例を共有することで、懸念を軽減し、コラボレーションを促進し、信頼を築くことができます。
  7. 評価と反復
    主な指標を設定したら、AIツールのパフォーマンスをモニターし、評価します。企業によっては、支出カテゴリ全体にわたりAI調達の価値を追跡することでパフォーマンスを測定しています。どのような方法で測定するにしても、ユーザーからのフィードバックを収集したうえで、改善方法を特定するよう徹底します。

オラクルによる調達チームの強化

Oracle Fusion Cloud Enterprise Resource Planningアプリケーション・スイートの一部であるOracle Fusion Cloud Procurementに組み込まれたAIおよび生成AI機能は、調達担当者による出荷リードタイムの予測、異なる支出タイプの分類、割引の動的な適用、適格なサプライヤーの迅速な特定と追加などを支援します。

調達におけるAIに関するFAQ

調達でAIを活用するための方法を教えてください。
調達チームはAIを使用して、コストの予測と削減、主要なタスクの自動化、コンテンツの生成、サプライヤーの選択、サプライヤーとの関係管理を支援しています。

調達業務がAIに置き換えられる可能性はありますか。
AIは調達担当者のスキル、経験、判断を強化します。また、スキルの高い人に取って代わるものではありません。実際、AIはこのテクノロジーに高いスキルを持つ調達担当者に新しい雇用を創出すると期待されています。

AIを調達に使用している企業を教えてください。
AI調達ツールは、世界トップクラスの小売業者、食品加工会社、消費財メーカーなど、大小さまざまな企業で導入されています。

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