デジタル銀行を成功させるための6つの設計上の考慮事項

製品戦略・マーケティング担当バイスプレジデント、Tushar Chitra

Oracle Financial Services、製品戦略・マーケティング担当バイスプレジデント、Tushar Chitra、Oracle Financial Services、バンキング・エンタープライズ・アーキテクチャ担当ディレクター、Prosenjit Banerjee

革新的な変化に対応可能かつアジャイルなテクノロジーを、ゼロからどのように設計しますか?また、コストを抑えつつ銀行の回復力を維持しながら、製品のイノベーションとリリースの迅速化をどう実現しますか?将来の成功を支える技術的基盤の設計を担当するエンタープライズ・アーキテクトとして直面する最大の課題は、市場や組織のニーズの変化に適応しながら最適なコストで運用できる銀行プラットフォームを実現し、かつ豊富な機能性を確保することです。

成功するデジタルバンクの構築には、クラウド対応のコンポーネント設計図、優れたチャネルおよび製品体験への徹底的な集中、そして創造的思考が不可欠です。また、価値の単位に着目しつつ、各アーキテクチャ・コンポーネントが統制の取れない混乱を招かず、ビジネスに定量的な変化をもたらすよう設計することも重要です。

Oracle Financial Servicesは、顧客のデジタル・トランスフォーメーション(DX)のメトリックに応じて、さまざまなアーキテクチャ・パターンを評価し、多様な要件への対応をご支援します。この点を考慮して、デジタル・バンクの進化を始める際に検討すべき6つの設計要素を以下に整理しました。

1.機能性と柔軟性の両方を等しく重視する

銀行がデジタル・トランスフォーメーション(DX)に取り組むにあたっては、機能性と柔軟性の双方を同等に重視することが極めて重要です。この考え方を、格別な食事体験を提供するという文脈で考えてみましょう。まず、提供したい料理を調理できるよう、必要な食材を揃えた設備の整ったキッチンが不可欠です。同時に重要なのは、料理や体験の演出・提供方法です。この考え方は、成功するデジタル・バンクのアーキテクチャ設計にもそのまま当てはまります。差別化されたサービス・レベルを実現するだけの十分な俊敏性を備えつつ、必要なコンポーネントと機能をすべて揃えておくことが求められます。

2.オープンで相互運用可能な発想をする

変革の過程においては、サポート・システム、ゲートウェイ、規制インターフェイスとの相互運用がシームレスである必要があります。オープン標準の採用は不可欠であり、プラットフォーム・コストやベンダー・ロックインのリスク、オープンシステム・プロジェクトの再利用性、相互運用性標準の達成度などの間でバランスを慎重に評価しなければなりません。もちろん、すべてを一度に変える必要はありません。実証されていないテクノロジー・プラットフォームを継続的に採用する組織傾向は、長期的な共存性やセキュリティ面で深刻なリスクを伴う可能性があります。

3.継続的イノベーションとデリバリをビジネス戦略の柱として確立する

次世代の銀行顧客の行動や嗜好は変化しています。顧客は、どこからでも自由に銀行サービスを利用できることを当然と考えています。そうしたエクスペリエンスを提供するためには、銀行は継続的なイノベーションとデリバリを積極的に取り入れる必要があります。デジタル・トランスフォーメーション(DX)においては、適切なトランザクションを、適切なチャネルで、適切なタイミングで実現することが求められます。このためには、従来のオムニチャネルを超えて、より高度に最適化されたオプティチャネルの概念の採用が必要です。これには、ウェアラブル端末での承認、ピアツーピア決済、音声支援トランザクション、チャットボットによるセルフサービス、QRコードを活用したマイクロトランザクションなどが考えられます。個人資産管理のような、かつては富裕層向けとされたプレミアム・サービスも、今では一般化しつつあります。組み込み型人工知能(AI)機能やプロセス自動化は、銀行が顧客の行動や嗜好を深く理解するために欠かせません。銀行が顧客についてより多くを知ることで、より的確に対応し、成長することが可能になります。

銀行は、シンプルかつ堅牢なコアを活かし、外部で新たなアイデアを試す文化を築くべきです。継続的イノベーションと継続的デリバリを支えるテクノロジー・パラダイムはこの取り組みを後押しし、DevOpsは、過度な技術導入によって工程が曖昧になるのを防ぎつつ、効果的なデジタルファクトリーへの道を示します。

4.成功するための適切なオーケストレーションを選択する

データは、銀行にとって最も強力な競争上の差別化要因ですが、それが完全に活用・収益化された場合に限ります。機械学習、AI、自然言語処理は、ビッグデータをすべての業務プロセスに組み込んで調整するうえで不可欠です。アーキテクチャは、こうした最先端のテクノロジーや未来のテクノロジーにも対応可能である必要があります。

データ量が増加する中で、分散型ビジネス情報モデルを採用する判断は、ますます重要になってきます。より優れた設計自律性を支えるには、データ・アーキテクチャ全体の整合性を保ちつつ、分散モデルでのデータの整合性を確保できるようなオーケストレーターの導入を検討すべきです。オーケストレーターは、マイクロコンポーネント化された要素(=「オーケストレーション楽器」)を同期・調整する上で欠かせません。

5.デジタル・トランスフォーメーション(DX)とクラウド戦略を一致させる

クラウドは、デジタル・トランスフォーメーションを支えるインフラストラクチャの標準の選択肢になりつつあります。パブリック・クラウドの利用が限定的な地域でも、プライベート・クラウドやマルチクラウド、ハイブリッド・クラウドといった選択肢を検討する動きが広がっています。

クラウドの導入や運用は、単なるテクノロジーの選択ではなく、銀行の今後のビジネス・モデル全体を再定義する要素です。クラウドは、スケーリング、コンテナ化、プラットフォーム・テクノロジー、リスク管理、ビジネス継続性といった観点で、独自の設計判断を伴います。その際にもっとも重視すべき点は、エンタープライズ・クラウド戦略が銀行のデジタル・トランスフォーメーション(DX)戦略を補完する位置づけであるべきであり、決してその逆ではないという点です。パブリックとプライベート、いずれのクラウドをいつ活用するかを考える際は、コモディティ・プロセスと、市場での差別化要因となる「企業独自の強み」を区別し、それらの機能を適切に配置することが重要です。

6.内部・外部ユーザーにとって使いやすくする

ユーザー中心の考え方は、いくら強調してもしすぎることはありません。それはカスタマー・エクスペリエンスだけでなく、行内のユーザーにも同様に当てはまります。アーキテクチャは、1つの処理のために複数のアプリケーションを開くのではなく、1つの画面で統合ビューを提供できるよう設計されるべきです。また、ユーザーが例外処理や分析により多くの時間を使えるよう、ストレート・スルー・プロセッシング(STP)を優先するアプローチを採るべきです。

デジタル・トランスフォーメーション(DX)を支援するためにどのようなアーキテクチャや設計、テクノロジーを選んだとしても、新たな環境は少なくとも今後10年間は期待に応える必要があります。魅力的で複雑な選択は、全体的な業務の再設計や、継続的インテグレーション・デリバリのプロセス、新たなスキルやトレーニングへの大規模な投資を必要とする可能性があります。最終的には、テクノロジーの出現・成熟・衰退というサイクルを見越し、より長く生き残るであろうテクノロジーに柔軟に適応していくことが、成功へのカギとなります。

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