マネー・ロンダリング防止AIの説明

Aaron Ricadela | コンテンツ・ストラテジスト | 2024年8月28日

マネー・ロンダリングとは、個人または犯罪組織が違法な活動から得た収益を、合法に見せかけるために、世界の金融システムへ流入させる手口を指します。米国の銀行は、マネー・ロンダリング対策に年間約250億ドルを費やしており、その防止を怠ったとして世界中の銀行に科された罰金は、2023年に60億ドルを上回りました。

犯罪者が規制を回避する手法は巧妙さを増していますが、追跡ソフトウェアが調査のために発するアラートの大半は実際には無害なトランザクションであるため、銀行側は真のマネー・ロンダリング行為を特定するのに苦労しています。こうした誤検知は、時間とコストの無駄につながります。

現在、金融機関は、事前に定義されたルールに基づく従来型のマネー・ロンダリング防止(AML)ソフトウェアに代えて、より高度なAI搭載のソリューションの導入・併用を始めています。このソフトウェアは、人や企業間のトランザクションや関係の中に潜むパターンを検出し、疑わしいアクティビティをより深くスクリーニングし、マネー・ロンダリングのリスクに基づいてお客様を効果的にスコアリングします。これにより、誤検知アラートの削減、違法行為者からの保護強化、規制罰則の回避、コンプライアンス・コストの抑制といった効果が期待されます。

AIとは?

人工知能(AI)は、大量のデータからパターンを学習し、コンピューターが関係性を見出し、推論し、将来のシナリオを予測できるようにする統計手法の総称です。金融業界では、クレジット・カード詐欺の防止、パーソナライズされた製品提案、営業支援、マネー・ロンダリング対策など、バックオフィスの業務自動化にAIが活用されています。

AML AIとは?

従来のルールベースのシステムは、事前にプログラムされたパターンに従って不正行為や疑わしい取引の兆候を探していましたが、現在は、マネー・ロンダリングの兆候を検出できるAIベースのシステムが主流になりつつあります。従来、AMLソフトウェアは、犯罪行為を示す可能性のあるレッドフラグだけでなく、国際制裁リストに記載された銀行顧客、政府への報告義務基準を下回る預金、あるいは最近入金された額と類似する口座からの送金といった補足情報も検知対象としてきました。

しかし、犯罪者は合法に見える財務取引を装いながら収益を洗浄するための戦術を高度化させています。彼らは、所有者を特定しにくくするためにペーパー・カンパニーを設立するだけでなく、ほとんどの取引を現金で行う既存の企業に投資し、その後に売上を水増しします。また、現金を少額に分割して複数の金融機関に預け入れ、規制が緩い国々を経由して資金を還流させています。このような背景から、従来のAML手法では効果が薄く、多数の誤検知を招くことで、銀行に年間数千万ドル以上の損失が生じる恐れがあります。

AIベースのシステムは、個人のネットワーク内に潜むトランザクション・パターンを検出したり、企業やその業界で以前に一般的だった行動と照らし合わせたり、顧客の過去の行動やKYC(Know Your Customer)情報に基づいてリスク・スコアを付与したり、イベントのトリアージによって低リスクの調査を終了させたりできます。AIチップ・メーカーのNVIDIAの調査によると、トランザクションの不正検出、ベンダーへの電子決済、AML、KYCは、金融サービスにおけるAIの主要なユースケースのトップ5に含まれています。

主なポイント

  • 人工知能は、顧客の行動の微細な変化を捉え、新たなリスクの発生に適応することで、銀行が規制コンプライアンス・コストを削減するのに貢献します。
  • このソフトウェアは、これまで見落とされていたリスクを可視化し、AMLチームが調査する誤検知アラートを削減することで、マネー・ロンダリング対策を支援します。
  • 銀行は真に疑わしいアクティビティについて当局に報告する件数を従来と同程度に維持しています。
  • しかし、マネー・ロンダリングを阻止できなかったことによる規制当局からの罰金が世界的に増加しているため、非効率的なプロセスに伴うコストがより重くのしかかっています。

マネー・ロンダリング防止AIの説明

銀行は、ますます巧妙化するマネー・ロンダリング手法に対抗し、高額な罰金を回避しつつ、規制コンプライアンスのコストを抑えるという強いプレッシャーに直面しています。McKinsey & Companyのレポートによれば、銀行がルールベースのソフトウェア・ツールをAIベースのAMLアプリケーションに置き換えることで、疑わしいアクティビティの特定精度を最大40%向上させるとともに、誤検知の件数を大幅に削減できます。

AIの手法には、機械学習を活用した顧客スコアリングにより、金融犯罪の傾向を予測するアプローチが含まれます。AMLアプリケーションでは教師なし学習も用いられており、機械学習システムはラベル付けされた例を用いずに生データから関係性を抽出し、顧客の行動変化を識別してリスクをより正確に評価します。AIシステムは、期待される行動パターンのモデルを組み込み、逸脱にフラグを立てることで、従来の固定ルールを代替できます。AIベースのAMLツールは、ルールベースのシナリオ・イベントをトリアージし、低リスクの調査を自動的に終了または優先順位を引き下げられます。

AML AIの仕組み

企業や個人が銀行口座を開設する際、銀行はリスク評価を行います。この評価には、見込み客の職業、居住地、収入源、資金移動の計画に関する一連の質問が含まれます。銀行はまた、見込み客が資金移動を禁じる国際的な制裁リストに記載されていないかを確認します。さらに、見込み客がいわゆる「政治的要人」(政治家、その家族、または密接な関係者)に該当するか否かを判断する必要があり、これに該当する者はより厳格な審査の対象となります。その後、銀行はKYCプロセスを実施し、潜在的な申請者に対し、マネー・ロンダリングまたは詐欺のリスク評価を行います。

ただし、リスク評価には顧客の正直な回答に依存する部分もあり、金融機関は実際の銀行活動が申告内容から逸脱していないかを自動的に検証する手段を必要としています。従来のAML管理では、国際送金や、同額のトランザクションが複数口座間で短時間に移動していないか、または大口取引が複数の小口に分割されていないかといった観点でトランザクション・データをチェックします。犯罪者はしばしば、居住地よりも規制の緩い国の口座に資金を移動させています。ただし、これらの行動には無害な理由も存在するため、判断は容易ではありません。

AIベースのシステムは、人間のアナリストやリスク管理者では把握しきれないパターンを特定する高度なデータ分析機能を備えています。このソフトウェアは、行動リスク・スコアリングにより顧客の犯罪傾向を予測したり、予測モデルを使って、より専門的な対応を要するかどうかを判断し、レベル1の調査を自動で完結させたり、マネーロンダリングのシナリオをシミュレートして、トランザクション監視システムの有効性を評価したりできます。これにより、実際にマネー・ロンダリングとは関係ないアラートの数が減り、コンプライアンス・コストの低減にもつながります。生成AIテクノロジーは、銀行がリスクの初期評価をまとめ、法執行機関向けの疑わしいアクティビティ報告書を作成するのに役立ちます。

AML領域で一般的に使用されているAI技術には、深層強化学習、生成敵対ネットワーク(GAN)、グラフ・ニューラル・ネットワーク(GNN)などがあります。GANは、トレーニング・データから学習したマネー・ロンダリングの例を一般化し、犯罪者が手法を変化させた際にも新たなパターンを見つけ出します。GNNは、過去に特定されていなかった関係も含めて、学習過程で得られた人物とエンティティ間の関連性を探索します。これにより、銀行はマネー・ロンダリングに関与している犯罪者集団の特定に役立てることができます。深層強化学習は、AIモデルに、正しい判断をすることで肯定的なフィードバックを得るよう学習させることで、データ間の新たな関係性を学ばせることができます。その結果、モデルはトランザクション監視を変化する戦略に合わせて調整することができます。

AI搭載のAMLシステムには、自己学習機能があります。たとえば、AIソフトウェアが、共通の特性を持つものの、マネー・ロンダリングの可能性が低いトランザクションを検知した場合、今後は同様のトランザクションを通過させるよう、マスター・システムに変更を推奨できます。

2022年にイングランド銀行が発表したAIに関する報告書では、「AIが重要である理由の一つは、新たなユースケースを実現できる点にある」と結論付けられています。その例として、犯罪者が「実際のデータの断片を組み合わせて…人間のアナリストには特定が困難な場合もある」ようなアイデンティティを生成する、合成ID詐欺への対応が挙げられます。AI搭載のAMLシステムはさらに、教師なしニューラル・ネットワークを活用して、IPアドレスや行動パターンなど幅広いデータ・ソースを分析し、アラートを生成することもできます。

AML AIのメリット

これまでのAMLシステムは、レッドフラグを示す可能性のある活動に対して、最適な感度で対応できるよう調整が必要です。アラートが少なすぎれば犯罪行為を見逃すリスクがあり、規制当局から警告や罰金を受ける可能性があります。一方で、アラートが多すぎると、銀行のコンプライアンス担当者がすべてのフラグを確認し、対応を判断しなければならず、業務負荷が大きくなります。AIシステムは、ほぼ同数の疑わしいアクティビティ報告書(SAR)を生成しながら、誤検知の件数を大幅に削減できることが実証されています。このようなAIのメリットについて、以下でさらに詳しく説明します。

  • リスク検知精度の向上。AI技術は、大量の構造化・非構造化データを統合的に分析し、行動パターンを学習して異常を検知することで、リスク検知の精度を高めます。ニューラル・ネットワークは、トレーニングを受けた既存のパターンと類似した動きを特定し、犯罪組織が既知のルールを回避しようとして詐欺スキームを微調整した場合にも、それを検出し対応策を提示できます。
  • 運用コストの削減。AI搭載のAMLシステムは、リスク・チームが調査すべき誤検知アラートの件数を削減することで、運用コストの低減に貢献します。各アラートは一次調査を引き起こし、それには担当者の作業時間が必要です。こうしたアラートの90%から95%は、二次調査や当局へのSAR提出に進む前にクローズされます。
  • コンプライアンスとガバナンスの強化。銀行のコンプライアンス部門、IT組織、事業部門は、変化するAML規制や未統一のグローバル・ルール(部分的に収束の兆しはあるものの)によって圧力を受けています。米国や英国など一部の規制当局は、AMLシステムへのAI導入を銀行に推奨しています。金融機関もまた、リスク検出テストの実施にAIや機械学習技術を活用しています。AIは、規制当局による監視対象となる可能性のある、これまで見逃されていたマネー・ロンダリングの活動を減らすことにも貢献できます。

AMLにおけるAIの限界

銀行が、一貫して正確な結果を生成するためのモデルのトレーニングに必要な高品質データを十分に有していない場合、マネー・ロンダリング対策にAIを適用しても効果的に機能しません。また、AIモデルのトレーニング、ファインチューニング、保守に対応できる人材の確保が求められ、システム設計時には顧客のデータ・プライバシーにも配慮する必要があります。AIには不透明性もあります。生成AIがどのようにして結論に至ったのかを、常に明確に説明できるとは限りません。マッキンゼーは、AI搭載のAMLシステムを開発する前段階で、銀行が規制当局と協議することを推奨しています。このようなAIの限界や課題についても、以下でさらに詳しく説明します。

  • データ品質と可用性。不完全または不正確なデータは、AIモデルの性能を阻害する要因となります。AIモデルは、導入後に疑わしい取引を正確に識別するため、トレーニング中に高品質の実例を十分に学習する必要があります。データへのアクセスが限られている銀行、特にマネー・ロンダリングの実際の事例に関するデータへのアクセスが限られている銀行は、別のアプローチの検討が必要でしょう。
  • 規制およびコンプライアンスの課題。AML規制は常に変化しており、時には曖昧で一貫性を欠いているため、銀行のコンプライアンス部門、IT組織、事業部門に大きな負担をかけることがあります。たとえば、AMLの国際標準を策定する金融活動作業部会(FATF)の勧告は、各国の監督当局へのガイダンスに広い裁量を与えています。JPMorgan ChaseのCEOであるJamie Dimon氏は、AML要件の簡素化と改善を提唱しています。規制は統一されつつあります。2024年、EUはフランクフルトに新たなAML当局を設立しました。この当局の規則は、各国の国内法への転換を必要とせず、域内のすべての企業に直接適用されます。
  • 運用および技術的な問題。多くの銀行は、システム統合という課題にも対処する必要があります。これは、メインフレームやその他のレガシー・システムに保存されたデータが、AIによる処理に適していないためです。コンサルティング会社のMcKinsey & Companyによると、銀行は顧客データの維持に苦慮しています。特に、記録が非標準形式で一部しか残されていなかったり、手書き書類から取り込まれていたりする長年の顧客に関しては、高品質なデータの確保が困難です。
  • 誤検知と見逃し。誤検知とは、本来無害な財務取引が、マネー・ロンダリングの可能性があるとしてソフトウェアによりフラグ付けされることを指します。その発生率は最大で95%に達することもあります。銀行はこれらすべてを調査する必要があり、多大なコストと時間を要します。一方で、見逃しとは、制裁対象エンティティの取引や実際のマネー・ロンダリングを検知できずに見過ごすことを意味します。これは、規制当局からの措置や評判の低下につながるリスクがあります。
  • 犯罪手法の適応性と進化。マネー・ロンダラーは高度に洗練された敵対者であり、検出を逃れるために手口を絶えず進化させています。犯罪に関与する者がマネー・ロンダリングを検知するためのルールを特定すると、わずかに行動を変化させて回避できてしまうのです。
  • プライバシーへの配慮。銀行がマネー・ロンダリング対策AIを設計する際には、これらのシステムのプライバシーに関する側面を考慮する必要があります。銀行は個人情報を含む膨大なデータにアクセスできるため、そのデータの利用権限は状況に応じて慎重に検討する必要があります。

AMLにおけるAIのユースケース

銀行は、顧客を新規に受け入れる際、銀行取引を監視する際、そして疑わしい行動を当局に報告する際に、AML AI技術を活用しています。このソフトウェアは、隠れたパターンから行動プロファイルを構築して取引を精密に分類したり、文書やニュースを分析して高リスクの顧客を特定したり、規制報告の作成を迅速化したりすることで、プロセスの効率性と効果を向上させることができます。

  • 取引監視。AIモデルは、主に以下の2つの方法で不正取引のトランザクションをモニターします。
    • パターン認識。AIモデルは、トレーニング・データに基づき、従来のルールベースAMLシステムを回避する取引パターンを認識するよう学習できます。例えば、多額の資金がより少額に分割される「ストラクチャリング」トランザクションの識別、あるいは大量のデータを分析して送金に利用されるペーパー・カンパニーの特定などが可能です。AIはまた、予測される顧客行動に加え、犯罪活動を示唆し得る行動からの逸脱をモデル化し、精度が劣る可能性のあるルールベースのアプローチを代替できます。
    • リアルタイム監視。デジタル決済のスピードが速まるにつれて、膨大なデータセットをリアルタイムですばやく選別できるAI搭載のAMLシステムへの需要が高まっています。2024年1月、米国通貨監督庁のMichael Hsu長官代理は、デジタル決済のスピードが詐欺のスピードも高めているとし、銀行に対して「リアルタイム金融システムに適したブレーキ」の整備を求めました。
  • 顧客デューデリジェンス(CDD)および本人確認(KYC)。銀行は、AIを活用した自動オンボーディング技術により、オンラインで顧客を特定・審査し、KYCプロセスの迅速化と精度向上を図っています。たとえば、デジタルID認証や本人確認書類のスキャンなどが含まれます。銀行は、トランザクションを継続的に監視することで、定期的なレビューよりも多くのデータを分析し、高リスクの顧客をより正確に特定できる可能性があります。
    • 自動オンボーディング銀行は、オンラインでの本人確認のために身分証明書をスキャンし、AIを使ってその真正性を評価することで、顧客口座開設のスピードと精度を高めることができます。
    • 継続的監視。顧客は銀行との関係において異なる行動をとることがありますし、世界中の選挙結果によって誰かが政治的に重要人物とみなされるかどうかが変わる可能性もあるため、金融機関はAIツールを導入して、トランザクション、実質所有権、制裁リスト、メディア報道を継続的にチェックしています。継続的監視では、銀行が前回リスク評価を行った時点以降に、顧客の行動パターンがより危険なものに変化していないかを確認します。
  • 疑わしいアクティビティの報告(SAR)。銀行は、マネー・ロンダリングやテロ資金供与の疑われる事案を規制当局に報告するため、SARを提出する義務があります。
    • 生成AIによる自動レポート・ツールを活用することで、アナリストが単独で作業するよりも効率的にSARを作成できます。
    • レポート精度の向上。SARの多くは、曖昧な記述や情報不足により、正確性に課題を抱えています。生成AIは、改善の余地が大きいこの点に対して、明確な記述とフォローアップ事項の抽出を通じて大きく貢献できます。
  • PEP制裁スクリーニング。また、ロシア・ウクライナ戦争以降、国際制裁リストの更新頻度が高まり、国や言語ごとに異なる表記の人物・法人を突き合わせる必要も生じており、従来のAMLシステムでは限界があります。
    • AIによる自動スクリーニングは、非構造化文書からの情報抽出、レッドフラグ用語の同義語検出、意味が異なる類似スペルの除外などを可能にし、誤検知の削減に貢献します。
    • 誤検知の削減。その結果、誤検知の削減が減少し、アナリストによる時間集約的なレビューの必要性が軽減され、コスト効率の改善につながります。
  • 高度な分析と可視化。人やエンティティ間の関係性を表すグラフなどのデータ可視化技術は、非技術系のビジネス・ユーザーがリスクの変化や疑わしいマネー・ロンダリングの地理的分布を把握するのに有効です。
    • データ可視化。関係グラフに加え、AI技術はアナリストが地図上で不正の発生場所を特定し、ダッシュボードをドリルダウンして詳細情報を取得する作業を支援します。これにより、より迅速かつ効果的な意思決定が可能になります。
    • ダッシュボード・レポートは、監視対象の取引、生成されたアラート、提出されたSAR、開始および終了された調査に関して、主要業績評価指標(KPI)に対するメトリックと進捗を可視化します。
  • 規制コンプライアンスAIツールは、金融機関が監査可能性を確保するための文書を含め、規制の変更を常に把握し、それに対応するのに役立ちます。
    • 規制の更新。マネー・ロンダリングやKYCに関連する罰金の増加、さらに新たに設立された規制当局の存在により、銀行は変化する規制に確実に対応し、手作業のプロセスを自動化または補完することで、罰金リスクの軽減につながるテクノロジーへのニーズが高まっています。
    • 監査証跡。これらのソフトウェア・ツールは、AML関連の意思決定のプロセスを記録する監査証跡を生成でき、活動履歴やデータ・アクセスの状況を示す監査ログの作成も支援します。
  • 事例管理。ワークフロー自動化ツールおよびコラボレーション・ツールは、アラートの優先順位付け、対応アクションの提案、レポートの自動化を通じて、AMLコンプライアンスの効率化に貢献します。これらのソフトウェアはアラートの追跡を行い、疑わしいアクティビティを可視化するダッシュボードを提供できます。
    • ワークフロー自動化。ITコンサルティング会社KPMGによれば、金融機関が金融犯罪対策にワークフロー自動化ツールを導入することで、年間のコンプライアンス・コストを平均で4分の1削減できる可能性があります。また、AIツールは規制変更をオンボーディング・ワークフローに反映させることで、KYCプロセスを常に最新の状態に保つことができます。
    • コラボレーション・ツール。事例管理ソフトウェアは、コンプライアンス情報を一元的に保管する機能を備えており、各部門間の連携を支援します。
  • 不正検出と防止。銀行は、マネー・ロンダリングの検出から阻止までにある程度の時間的余裕がある一方で、損失を防ぐためにはトランザクションが実行される前に不正を阻止するのが理想です。AIシステムは適応学習機能を備えており、トランザクション・スクリーニングの精度向上に寄与します。KPMGの報告によれば、AIモデルは顧客の全体像を把握できるため、銀行はAML、不正、さらに贈収賄や汚職に関連する制裁対象の調査やレポートも確認できます。
    • 統合された不正対策およびAMLソリューション。不正対策とマネー・ロンダリング対策を一体化したソフトウェア・パッケージの導入により、不正対策チームとAMLチームが関連性の高い顧客データを収集および共有し、銀行が直面するリスクを包括的に可視化し、犯罪者が検知回避に利用する抜け穴を塞ぐことができるようになります。
    • 適応学習。銀行が新たな不正事例を発見するたびに、AIシステムはそのデータを学習し、時間の経過とともに精度を向上させます。特に、見逃しや誤検知を引き起こしやすい検出しきい値付近の境界事例の特定において効果を発揮します。

AMLへのAI導入方法

AI技術を取り入れてAMLプロセスを再構築したい銀行は、まず、現在保有しているデータを含め、データ戦略を評価する必要があります。KYC、顧客オンボーディング、マネー・ロンダリング対策に関与する部門やワークフロー全体において、AIをどのように活用するかを検討する必要があります。構築されたシステムは、その状況における適合性を評価し、規制コンプライアンスの観点からも検証されなければなりません。これらのステップや詳細については、続きで説明します。

  1. 現在のAMLプロセスを評価する。銀行は、マネー・ロンダリング対策に関する現在の手法と、それに対するシステムの有効性を評価し、AIによるアプローチで削減可能なコストと改善可能な点を洗い出す必要があります。
  2. 目標と要件を定義する。銀行は、運用コストや誤検知の削減など、具体的かつ明確な成功指標を含めたAI実装の目標を設定することが求められます。
  3. データ収集と準備を強化する。銀行は、データが十分にクリーンであり、AIモデルの訓練に必要な質と量を備えていることを確認する必要があります。さらに、モデルの調整や戦略の洗練に対応できるだけのデータサイエンスの専門人材も確保しておく必要があります(詳細は後述します)。
  4. 適切なAIツールとテクノロジーを選択する。必要なユースケースに合ったAIシステムの選択が重要です。システムは、リアルタイムでのトランザクション監視、顧客オンボーディングおよびKYCプロセスへの機械学習と自然言語処理(NLP)の活用、さらに疑わしいアクティビティ報告書の作成における生成AIとNLPの応用を可能とする必要があります。銀行は予測分析を活用して、異常または疑わしい行動を評価できます。グラフAI分析は、アナリストには把握できない人物や組織のネットワークの特定に役立ちます。
  5. AIモデルの開発とトレーニング。AML向けAIモデルのトレーニング方法には、主に2つのアプローチがあります。行動モデル、顧客リスク・スコアリング、AMLおよび制裁リスト関連イベントのスコアリングには、ラベル付きデータを用いる教師あり学習が使われます。これは、モデルが入力と出力の関係性を学習する際に特に効果的です。一方、カスタマー・セグメンテーションや異常検知といったユースケースでは、銀行は一般に教師なし学習を採用します。この場合、マネー・ロンダリングや詐欺のラベルなしケース、および誤検知のデータが提示されます。モデルは、データ・サイエンティストの介入なしに、モデルは両トランザクション・グループの特性を識別する方法を学習します。教師なしモデルは、これまで明らかになっていなかったデータ間の関係を把握できる点が特徴です。
  6. AIと既存システムの統合。多くのAMLプロセスがレガシーITシステム上で稼働しているため、銀行は、従来のトランザクション監視・報告システムや多様なデータ型と接続できる機能を整備するか、AIの要件に対応するためのインフラストラクチャのモダナイゼーションが必要となります。
  7. スタッフのトレーニングとサポート。AIツールおよび関連プロセスに関するトレーニングは、単に規制コンプライアンスのためだけでなく、テクノロジー導入に対する現場スタッフの抵抗を軽減するためにも不可欠です。
  8. 継続的な改善と適応の取り組み。AIは継続的な学習を促進するよう設計されており、銀行も同様に、このテクノロジーの導入・運用にあたって継続的な改善と適応の姿勢を持つ必要があります。AMLアラートについては、モデルのいわゆるリコール性能も考慮すべき要素です。これは、はるかに少ないアラートから、実際の疑わしいアクティビティ報告書と同等数を的確に抽出できる能力を指します。
  9. 規制コンプライアンスの徹底支援。AIを取り巻く法規制は進化しており、銀行は常に最新の規制動向を把握し、確実なコンプライアンス体制を維持する必要があります。内部統制、トレーニング、継続的なコンプライアンス責任者の任命は、効果的なAMLコンプライアンス体制の中核をなす要素です。

AMLにおけるAIの将来展望

世界各国の規制当局によるAML要件は進化を続けており、銀行のAML予算が逼迫する中、AIによる分析と自動化の価値はますます高まっています。米国では、財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が、銀行秘密法の対象を投資顧問に拡大し、SARの提出を義務化する規則の導入を検討しています。シンガポール金融管理局は、中国人犯罪者が同国の16の銀行を通じて22億USドル超のオンライン・ギャンブル収益をマネー・ロンダリングした事件を受け、ファミリー・オフィスやヘッジファンドに対するレポート要件を強化し、大手銀行への監視を強化しています。スイスの規制当局FINMAは銀行に対してより徹底的なAMLレビューの実施を命じており、EUの新設マネー・ロンダリング対策機関も最大40の金融機関への直接監督の導入が予定されています。

高級車、収集品、宝飾品、美術品といった資産に資金を移すことで追跡が困難になっており、銀行は、AIを活用した新たな不正検出手法の導入に注力する必要があります。また、マネー・ロンダリング犯がソーシャルメディアを通じて、資金を預ける役割を担う下級労働者を募集しており、従来型システムではこうした不正行為の根絶が難しくなっています。

オラクルによるマネー・ロンダリング防止(AML)のモダナイゼーションと強化

Oracle Financial Crime and Compliance Management Cloud Serviceには、リスクに基づきエンティティおよびトランザクションを動的にスコアリングし、制裁対象となるエンティティや国へのトランザクションを即時に凍結し、アナリストによる迅速な対応を可能にするソフトウェア・エンジンが搭載されています。また、調査員のワークフローに沿ったフル機能の事例管理機能も提供されています。

Oracle Financial Services Compliance Studioには、統計分析機能と教師あり・教師なし学習ベースのAIテクノロジーが組み込まれており、リスクの把握とモニターを強化しつつ、コンプライアンスおよび金融犯罪対策プラットフォームの運用コスト削減に貢献します。

オラクルのアプローチにより、ある大手多国籍銀行では、6週間以内にAIモデルを実装し、アラート数を45%〜65%削減しつつ、疑わしいアクティビティ報告書の件数は少なくとも99%維持することに成功しました。

Oracle Financial Services Compliance AgentはAIを活用したクラウド・サービスであり、銀行がトランザクション監視システムをテストし、犯罪に関与する者をシミュレーションしてAMLプログラムをストレス・テストできるようにすることで、コストおよび規制リスクの低減に貢献します。オラクルはまた、金融犯罪対策ソフトウェア向けに生成AIコンポーネントを開発しており、報告書における事例記述の作成を支援しています。

AMLとAIに関するよくある質問

AMLは自動化されますか?
銀行は、部門横断的にデータを収集・処理できるAIツールを導入することで、AMLプロセスの自動化を進めています。これらのツールは、AML業務を担うアナリストやその他の関係者を補完し、業務を支援します。

マネー・ロンダリング防止における生成AIとは何ですか?
銀行は生成AIを活用して、従来のAMLソフトウェアにハードコーディングされていない関連用語を検索したり、トランザクション間の見えにくい関連性を特定したり、疑わしいアクティビティ報告書などの記述を自動生成したりしています。

AMLにおけるインテリジェント・オートメーションとは何ですか?
インテリジェント・オートメーションは、AMLシステムが誤って不正としてフラグを立てたトランザクションをレビューする際の手動作業を軽減するために用いられます。これは、AIモデルが学習した新しいパターンを将来のトランザクション分類に適用することで実現されます。これにより銀行のコスト削減と精度向上を実現できます。

銀行が今注目すべき技術的必須事項